サーチュイン遺伝子とは?活性化のメカニズムを解説

遺伝子研究は非常に奥深く、そして可能性にあふれた分野です。

なかでも今回注目するのは「サーチュイン遺伝子」です。

国立遺伝学研究所は、2013年に「サーチュイン遺伝子は、本当に長寿遺伝子だった」と題した研究成果を発表しました。

この研究では、酵母菌の自由な寿命変化に成功したことにより、サーチュインの抗老化メカニズムを解明したのです。

この記事では、そんなサーチュイン遺伝子の基礎知識として、概要や種類、発見の歴史、体内でのはたらきを解説したうえで、サーチュイン遺伝子を活性化する方法を紹介します。
 

サーチュイン遺伝子とは

サーチュイン遺伝子とは、酵母菌からヒトまでさまざまな生物に存在する遺伝子の一種であり、関連する遺伝子の総称でもあります。

老化や長寿への影響が考えられることから、一般に「抗老化遺伝子」「長寿遺伝子」「長生き遺伝子」などと呼ばれているのです。

哺乳類では7種類が見つかっています。

それぞれが細胞の中の特定の場所に存在し、老化、寿命、さらには糖質の代謝など、生命維持に不可欠な多様な機能を調節します。
 

サーチュイン遺伝子の種類とはたらき

サーチュイン遺伝子には、SIRT1からSIRT7までの7種類が確認されています。

それぞれの役割を詳しくみていきましょう。

・SIRT1:核の細胞質に存在。細胞が分裂したり、DNAが傷ついたりしたときに修復する過程に関与しています。また、体がストレス状態にあるときの反応の調節も担っています。

・SIRT2:核の細胞質に存在。細胞が増殖するサイクルや細胞の骨組みの調整にも関わっています。

・SIRT3:ミトコンドリアに存在。私たちの細胞内でエネルギーを生み出すミトコンドリアの働きやエネルギーの変換過程に関与しています。

・SIRT4:ミトコンドリアに存在。ミトコンドリアでのアミノ酸の代謝と、血糖値をコントロールするインスリンの分泌に関わっています。

・SIRT5:ミトコンドリアに存在。ミトコンドリアでの酸化ストレスや窒素の代謝過程に関わっています。

・SIRT6:核に存在。DNAが修復される過程やクロマチン(遺伝物質をまとめる構造体)の構造を調整する役割を果たします。

・SIRT7:核に存在。細胞核内のRNAポリメラーゼI(RNAを作る酵素)の活性を調節する働きがあり、細胞が分裂したり増殖したりする過程のコントロールにも関わっています。

サーチュイン遺伝子が活性化すると、細胞内のエネルギー産生装置であるミトコンドリアが増殖します。

これにより、エネルギー産生能力が高まり、細胞のはたらきに寄与すると考えられているのです。

さらに、DNAの修復能力も向上することが確認されています。

紫外線や放射線などによるDNA損傷を修復し、健康維持への影響が期待できるでしょう

たとえばマサチューセッツ大学の研究者たちは、SIRT1というサーチュイン遺伝子をマウスから取り除いたところ、そのマウスが記憶障害を示すことが確認されました。

この研究により記憶機能の調整にも関わりがあることが示唆されています。

さらに、この遺伝子は、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症といった神経変性疾患の治療にも応用可能かもしれないと結論付けた研究も存在します。
 

サーチュイン遺伝子の研究の歴史

サーチュイン遺伝子は、レオナルド・ガレンテ氏(マサチューセッツ工科大学)らの研究で発見されました。

この研究で扱われたのが、植物の内部や、果物や野菜の表面、そして私たちが何気なく吸い込む空気のなかにも自然に含まれている「酵母菌」です。

酵母の特徴は、単細胞(1つの細胞だけで構成される)で寿命が短い微生物であること、糖を炭酸ガスとアルコールに分解する特性をもつことにあります。

あわせて酵母は、細胞が偏った形で分裂する「不均等分裂」という方法で増殖します。

一般的な単細胞生物は細胞が均一に分裂する「均等分裂」で増えますが、不均等分裂を行う酵母は、均等分裂する生物に比べて分裂による老化が早く、分裂を繰り返すことで一定の回数を超えると機能を失ってしまうという特性を持つ形です。

科学の分野では、酵母はその比較的シンプルな遺伝子構造と、時間とともに特性が変わるという特異な性質を持つ単細胞生物として、多方面で利用されているのです。

ガレンテ氏は、「カロリー制限と生命の長さに何らかの関連性がある」と予想し、1991年から8年にわたる研究の中でサーチュインという遺伝子を見つけました。

この酵母菌で見つかったのは「Sir2」(サーツー)と呼ばれる酵素です。この酵素はヒストン脱アセチル化酵素というもので、その働きが代謝や遺伝子の働きの制御、さらには加齢にまで影響を及ぼすことが示唆されました。

酵母菌の研究が一段落ついた段階で、研究対象は哺乳類にも広がりました。

そして次々と寿命に関連する遺伝子が発見され、サーチュイン遺伝子はSIRT1からSIRT7までの7種類に分類されることとなったのです。

2000年には、マサチューセッツ工科大学の研究者たちにより「酵母の抗老化遺伝子が酵素であり、ゲノムの一部を無効化し、生物の老化プロセスを遅らせることを確認した」との研究結果が「Nature」誌に報告されました。

この研究は、生物の代謝速度を遅くすることがその老化も遅くするという関連性を示唆しています。

研究者たちは、カロリー摂取量を通常の70%に制限すると、酵母、ミミズ、マウス、おそらくは霊長類の寿命が大幅に延びるという別の研究と関連があるかもしれないと指摘しています。

あわせてSIR2を活性化するためにはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)が必要であることもわかりました。

NADはすべての細胞が生成する共酵素であり、一部の酸化還元反応において電子と水素を転送するのを助けるとのことです。

また研究が進んだことにより、サーチュインの活性化にNMNが関連することも判明しています。

 

サーチュイン遺伝子を活性化させるには?

ここではサーチュイン遺伝子を活性化させる方法を、そのメカニズムとともに解説します。
 

カロリー制限

カロリー制限とは、食事からとることができるエネルギーの摂取量(一般にカロリーで表現される)を抑えることです。

もしくは食事制限による健康維持法を指すこともあります。

研究により、食事からとる栄養のエネルギーを制限することが、サーチュインのはたらきに影響することがわかりました。

2004年に発表されたデビッド・シンクレア氏らの論文によれば、カロリーの抑制が、サーチュインの一種であるSIRT1の発現を呼び、細胞の長期生存を促進。

結果として健康維持につながる可能性があるとのことです。

この発見は老化や寿命のメカニズム解明において大きな意味を持ち、主に代謝学や内分泌学の分野において意味があったとの見方もできます。

学術資料検索サイトGoogle Scholarで確認すると、この論文が現在までに多数引用されていることを実際に確認できます。

その後のさまざまな研究にも影響を与えた論文と断言することができるでしょう。

ではカロリーが抑えられると、サーチュインに対して実際にどのような影響があるのでしょうか。

メカニズムを見ていきましょう。

カロリー制限により細胞内のエネルギー状態が下がると、この変化を察知したサーチュインが、エネルギー消費を抑えるために細胞の代謝や分裂を減少させます。

あわせてエネルギー生成を高めるためにミトコンドリアの数や機能を増強。

結果としてカロリー制限がサーチュイン活性化につながるというわけです。

さらにいくつかの論文では、サーチュインがDNAの修復を促進したり、抗酸化防御という老化防止メカニズムを強化したりすることで、細胞がストレスに耐えられる能力を上げる効果もあるとの報告があります。

また、カロリー制限がNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という物質のレベルを上げることで、結果としてサーチュイン遺伝子の活性化を促すとの論文も2009年に発表されました。
 

NAD+

NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、生物の体内に広く分布し、酸化還元酵素と結びつくことで基質からの水素原子を受け取り、水素を伝達する役割を担う補酵素です。

体内では、糖質を分解しエネルギーを生み出す過程に関わります。

NAD+は糖や脂肪といった栄養素を分解し、その過程で生成されるエネルギー分子、すなわちATPに変換します。これは酸化還元反応を促進し、エネルギーの生成に寄与するはたらきとなります。

またDNA修復や細胞分化にも欠かせないこともあり、NAD+は私たちの体の健康を維持する過程を支える存在であるといえるでしょう。

さらに、NAD+は「サーチュイン」という遺伝子の基質としても重要な役割を担っています。

サーチュインの活性化はNAD+の存在に依存しており、NAD+の量が多ければ多いほど、サーチュインの働きが強まる傾向にあるのです。

ただし加齢をはじめとするさまざまな要因によってNAD+の量は減少します。

何らかの方法で体内のNAD+の量を増やすことができれば、サーチュインの活性を高め、健康維持に影響する可能性があります。

ただしNAD+は直接摂取しても吸収されにくいため、前駆体であるNMNなどの摂取が現実的といえるでしょう。
 

レスベラトロール

レスベラトロールとはポリフェノールの一種で、抗酸化作用を持つ成分です。

赤ワイン、ピーナツの薄皮、黒ブドウの皮や種に含まれることで知られています。

実はこのレスベラトロールにも、サーチュイン遺伝子を活性化する作用が期待できるといわれているのです。

2003年に発表された論文では、レスベラトロールがサーチュイン遺伝子のSIRT1の働きを活性化し、細胞の生存を助け、寿命を延ばすという、カロリー制限に近い効果が確認できるとのこと。

またレスベラトロールがNAD+レベルを向上することで、サーチュイン遺伝子の活性化を促すとも考えられています 。

ただし、このレスベラトロールの研究については、測定方法に関してさまざまな意見が集まっていることもあり、解明が待たれる分野でもあります。
 

NMN

NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)とは、補酵素NAD+の前駆体です。

体内のニコチンアミドから、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)によって自然に生産されるほか、NMNはサプリメントなどを活用し、意識して摂取することも可能です。

さらに体内でNMNはNAD+へと変換され、結果としてサーチュイン遺伝子が活性化されることもわかっています。

具体的な研究例として、今井眞一郎氏が行ったマウスを用いた実験では、脳の視床下部でのSIRT1活性化が、老化による病態の進行を遅らせ、健康寿命をメスで16.4%、オスで9.1%も延ばすことが明らかにされました。

また、人間でいうところの60代に相当するマウスにおいても、視床下部のSIRT1を増加させることで、若いマウス同様に活動的な振る舞い、高い体温、そして活発な代謝を示すことが確認されています。

ただし、こうした研究結果は主にマウスを対象としたものであり、そのまま人間に適用して考えられるかはまだ明らかではありません。

NMNやNAD+に関する研究は、酵母やマウスを経て、現在はヒトに対する実験がいくつも進められています。

たとえば2020年には、日本の慶應義塾大学医学部とアメリカのワシントン大学医学部との共同研究が公開されました。

2016年から開始され、健康な男性10人を対象とした臨床試験で、NMNの人体への影響を調査していました。

その結果として、NMNの投与が健康な人間に対して安全であること、また、体内でNMNが投与量に応じて代謝されることが明らかにされたのです。

安全性の確認は、次のステップへ進むための重要な道標となります。

よって本研究は、NMNが人間の体にどのように影響するかを調べる研究において、大いに意味のある進展と言えるでしょう。

 

まとめ

サーチュイン遺伝子は、私たちの体において老化や寿命に関係しています。

カロリー制限やNMNの摂取などにより活性化し、健康への影響が期待できるとの研究結果も確認可能です。

ただしサーチュインは未解明の部分も多い物質であり、メカニズムを解き明かすためは今後さらなる研究や試験が必要です。

最新の情報をチェックすることで、ご自身の健康維持へとつながる可能性も十分にあるでしょう。

 

#サーチュイン遺伝子 #カロリー制限 #レスベラトロール

執筆者・監修者

代表取締役 島本 倖伸氏

株式会社CloudNine

代表取締役 島本 倖伸

真の健康と美しさを目指す企業として、株式会社CloudNineを創業。NMNの食薬区分の改正に合わせて、同年6月にいち早くNMNサプリメントのRefeelas(リフィーラス)を発売。累計出荷本数20万本以上と、国内におけるNMNのリーディングカンパニーの一社として、数多くの臨床研究を積極的に行っている。NMNサプリメントにおいて日本初の機能性表示食品となった「Refeelasサプリメント」、スキンケアの「Refeelasオールインワンジェル」を販売。NMNをブームから文化にしていくために、NMN製品の臨床研究を積み重ねている。

共同研究者

准教授 澤邊 昭義氏

近畿大学農学部応用生命化学科

准教授 澤邊 昭義

1991年近畿大学大学院工学研究科応用化学専攻博士後期課程修了(工学博士)。1991年米国マサチューセッツ工科大学 博士研究員、1993年近畿大学 農学総合研究所 助手、講師、助教授を経て、2000年近畿大学准教授(農学部)。 専門分野:生物環境学、生命資源化学。研究略歴:様々な植物から有用性物質の探索を行い、食品、化粧品へ応用した実績を持つ。近年は、機能性表示食品へ応用可能な新規関与成分の探索研究も実施中。